はじめに:「暑いから」だけでは説明できない、個体差の謎
暑い日が続くと、私たちは決まってこう教わります。 「水分をこまめに摂りましょう」「日傘をさしましょう」「涼しい場所で休みましょう」
これらはもちろん、非常に重要で、命を守るための基本的な対策です。しかし、ここで一つの素朴な疑問が浮かび上がります。
なぜ、同じ環境にいても、平気な人と、ぐったりしてしまう人がいるのでしょうか?
「体質だから仕方ない」と片付けてしまう前に、もう少し深く、ご自身の身体の内側に目を向けてみませんか。この記事では、熱中症になりやすい人となりにくい人を分ける、身体の「内なる環境」について、私の考えをお話しします。
あなたの身体は、淀みのない川ですか?

私たちの身体の中では、血液やリンパ液が絶えず循環し、全身に栄養を届け、熱を運び去っています。これは、淀みなく流れる川のようなものです。流れがスムーズな川の水は、真夏の日差しを浴びても、ひんやりと冷たいままです。

しかし、もし川の流れが滞り、あちこちに「水たまり」ができていたらどうでしょう。 その水たまりは、太陽の熱を吸収し、あっという間にぬるま湯になってしまいます。
実は、私たちの身体の中でも、全く同じことが起きています。
血流が滞りやすく、「むくみ」がある部位。それこそが、熱を溜め込みやすい、危険な「水たまり」なのです。特に、頭や顔、首回り、そして背中といった上半身にこの「水たまり」がある場合、熱中症のリスクは格段に高まります。
なぜ汗をかけないのか?「無意識」な部位の反乱
通常であれば、私たちの身体は「発汗」という非常に優れた機能で、熱を外に逃がし、体温を下げようとします。これは、自律神経がコントロールする、生命維持のための緊急装置です。
しかし、先ほどお話しした「むくみ」が生じている部位は、神経伝達や血液の循環がうまくいかず、脳がその場所の状態を正しく「認知」できない、いわば「無意識」なエリアになっています。
脳が認知できないため、自律神経の司令塔も機能不全に陥り、「汗をかけ」という緊急指令が届かなくなってしまうのです。
その結果、どうなるか。 循環が悪く熱がたまりやすい上に、発汗による冷却もできない。この最悪のコンディションこそが、熱中症を引き起こす本当のメカニズムなのです。
「汗かき」も、実は危険なサインかもしれない
「自分は汗かきだから大丈夫」と思っている方も、注意が必要です。
本来、健康な身体は、過度な発汗に頼らずとも、全身のスムーズな血流によって体温を調節しようとします。大量の汗をかく、というのは、それだけ身体が常に緊急事態にあるというサインかもしれません。
特に、下半身の循環が悪く、上半身ばかりに熱がこもっている方は、顔や頭から大量の汗をかきがちです。これは、身体のバランスが崩れている証拠でもあります。
【セルフチェックのポイント】
- 普段あまり汗をかかない人: 皮膚を触ってみてください。もし冷たければ、循環と発汗のコントロールがうまくいっているサインです。もし熱ければ、発汗できずに熱がこもっている危険なサインです。
- 普段から汗かきの人: それは身体のどこかに循環障害を抱えているサインかもしれません。
どうすればいいのか?身体との対話を始める
道具を使って身体を冷やしたり、日傘で熱を避けたりすることは、もちろん重要です。しかし、最も本質的な対策は、ご自身の身体の循環と自律神経の機能を正常に保ち、「熱中症になりにくい身体」を日頃から作っておくことです。
そのために必要なのは、「自分を知る」こと。ご自身の身体と対話することです。
特に、ご自身では気づきにくいお子様や、感覚が鈍くなりがちな高齢の方は、周りの方が意識的に確認してあげることが大切です。
【今日からできる、身体との対話】
- 触れて、確認する: ご自身の、あるいはご家族の、頭、首、背中、腕、お腹などを優しく触れてみてください。「他の場所と比べて、妙に熱がこもっている場所」はありませんか?
- 冷やして、循環を促す: もし熱がこもっている「水たまり」を見つけたら、そこを重点的にアイシングしましょう。アイシングには、単に熱を取るだけでなく、一時的に血管を収縮させた後、逆に血流を促進させる効果があります。これにより、滞っていた循環が改善し、自律神経の機能回復にも繋がります。
まとめ:本当の対策は、あなたの内側にある
熱中症対策の本質は、外からの熱をどう防ぐか、だけではありません。 それは、あなたの身体の内側にある「淀み」に気づき、その流れをスムーズにしてあげることです。
特別なことをする必要はありません。 日々の暮らしの中で、ほんの少しの時間、ご自身の身体に触れ、その声に耳を澄ます。
その小さな対話の積み重ねこそが、あなたを本当の意味で、夏の暑さから守ってくれるのです。